3バックがもたらしたチェルシーの変化

じっくり考えたので長くなるとは思いますが、チェルシーの3バックシステムについて考察したので是非読んでみてください。



・リーグ前半6試合(4−2−3−1メイン)
3勝2敗1分 10得点9失点
・リーグ前半3試合(3−4−3メイン)
3勝0敗0分 9得点0失点


第7節のハル戦以降コンテが採用した「バック3システム」はこの3試合を見る限り完全にチームにフィットしており結果もついてきています。1試合あたりの得点数は1,6点から3点へと大きく向上し、失点に至ってはいまだに0。
アントニオ・コンテがバック3の使い手だということは元から承知のことですが、なぜここまでチェルシーのサッカーを回復させることが出来たのか、システム変更前と比べてどのような変化が起きているのか、考えて行きたいと思います!


そもそもコンテが得意とする「バック3」とは一体どのようなものなのか、ユヴェントス時代とイタリア代表時代を参考にして解説したいと思います。

GK、3CB、アンカー、WB(ウイングバック)、2CH(セントラルハーフ)、2トップ
この11人と陣形がバック3システムの基本的な形です。

攻撃時にはこのように両WBが高い位置を取りピッチを幅広く使います。コンテのバック3ではこのWBの果たす役割が非常に重要になってきます。WBが本来のウインガーのような高い位置を取ることにより相手DFラインを押し下げることを狙いがあり、つまり左右に相手のDFの気を引かせて中央を手薄にしてスペースを作るということです。2トップと2CHはそこで生まれた中央のスペースに侵入することができます。
また、状況に応じてWBではなくCHがワイドに開き高い位置をとることもあります。WBの攻め上がりが遅かったり、相手DFのマークを混乱させる際によく見られます。ちょうどイタリア代表のマヌエル・ジャッケリーニなどはこの動きを得意にしていましたね。
左右のCBも攻撃時には斜め前へとポジションを前進させます。この動きはWBのサポートであったり、アンカーが攻撃を組み立てるポゼッションのサポートになります。
この時、中央のCBには高いビルドアップ能力が求められます。アンカーやWB、中央を省力して最前線の2トップへのフィードなど供給役として総合的な能力が必須です。現状コンテの元でこのポジションを担当したのは約5年間ボヌッチだけで、コンテが何としてもチェルシーに連れてきたがる理由が分かりますね。

そして守備時には高い位置を取っているWB(もしくはCHの誰か)と2トップがラインを作るようにしてハイプレスを仕掛けます。これが1stディフェンスです。
そこで取きれなかった際は中央のCHが2ndディフェンスとして機能します。
その後ろではアンカーが最終ライン近くまで下り、左右CBが開くことで4バックに近い守備ブロックを作ります。この偽4バックは相手の攻撃の起点が中央なのかサイドなのか、両局面に対応しやすい形と言えます
またアンカーの選手には攻撃では組み立ての全権を、守備では状況に応じたポジション取りをするという高いゲームメイクと状況判断能力が求められます。コンテの元ではマルキージオやチアゴ・モッタがこの役割を担っていましたね。
基本はハイプレスによって高い位置でボールを奪い次々と攻撃を仕掛け、状況に応じて局面ごとに守備ブロックを作るのがコンテが得意とするバック3システムのイメージです。


前置きが長くなりました。
ではチェルシーはこのバック3システムの使い手コンテによりどう変化したのか、結論から言うとコンテは上述したバック3システムをそのまま導入するのではなくチェルシーのメンバーに当てはめる形でこのシステムを取り入れています。
名付けて、バック3システムver2!

コンテがチェルシーで見せているバック3の大きな違いは、まずアンカーのポジションに守備的な2枚を置いていること。これはカンテ、マティッチのゲームメイク力をメインにするのではなくより3トップに守備の負担を軽減させる目的があります。
CHを配置せずワイドに適性のあるアザールとペドロ(ウィリアンは母親の死で帰国していました)をセカンドトップ的な位置に置いています。3バックより前が2トップ、2CHの形から2アンカー、3トップへと変更しています。


それではこのバック3システムver2で見せているチェルシーの変化をまとめてみます。


①コスタの孤立を解消
②アザール、ペドロ(ウィリアン)らアタッカーの守備負担を軽減
③WBのフィット
④守備ブロックの構築と穴
という4つに絞って考察します。


①コスタの孤立を解消
コンテがチョイスする4−2−3−1システムでは良くも悪くもコスタが孤立してしまう場面が多く目立ちます。中盤のWボランチをカンテ、マティッチにすることの多いコンテの布陣は守備に重きを置くためコスタにボールが供給されるシーンが少なかったです。基本はワイドのアザールとウィリアン、トップ下のオスカルとの連携で崩すのでフィニッシュの最終局面でコスタの存在感は光っていました。今季は順調にゴールを決めていますしね。

しかしその反面、中盤での組み立てが停滞しているときはコスタは常に孤立状態です。コスタの孤立はすなわち、次の②でも言及しますがアザールとウィリアンがコスタに近いポジションでプレー出来ていないということです。コンテとマティッチでは組み立てをじっくりとしていくよりも守備に比重を置くためその部分で上手くいかない印象があります。特にマティッチは止まってプレーする選手ではなく前線へのランニングや連携による飛び出しを攻撃の際は得意にする選手です。
コスタへの供給を増やすと言う面で3トップを採用したのは成功でしょう。
アザール、ペドロ(ウィリアン)がよりコスタに近い位置でプレーすることで3人がコスタを中心に縦、横の関係を何度も作り1人がフリーになるシーンを作ることが出来ます。
こういったコスタの孤立を解消しつつ新たな連携パターンを作ることが出来ています。


②アザール、ペドロ(ウィリアン)の守備負担の軽減
4−2−3−1の場合2列目のワイドに起用されることの多い両者ですがなんせ守備が苦手です。高い位置でボールを奪うことを望むコンテにとって2列目でボールを奪えないことはつまり、またしても組み立ての上手くないカンテ、マティッチから攻撃をスタートすることになるのです。また、両者が守備で後方まで下がっていた場合は崩しの切り札が機能しないし余計にコスタが前線で孤立します。
コンテは思い切りました。3トップにして彼らのポジションを1列あげて、2列目でのプレーよりも守備での負担を減らし、1stディフェンスとしてだけに専念させています。マーカーを追い回し後方に下がることなく基本ポジションを今までよりも前でキープさせることに成功しています。

これにより奪った後に素早いカウンターが出来るようになりましたし、何より崩す能力においてプレミア屈指の両者を前に残すことで相手のラインを上げにくくする「プレッシャーディフェンス」も可能にしました。


③WBのフィット
上述のように3トップが比較的攻撃に専念できて、中央で良い連携を見せられているのにはモーゼスとMアロンソのWBとしてのここまでのハイパフォーマンスが非常に役立っています。アップダウンの量と高精度のキックに特徴のあるアロンソは元々フィオレンティーナでWBの左を担当していたので難なく対応できていますが、より攻撃的で挑戦的なイメージがあったモーゼスがまさかWBに対応できるとは思いませんでした。
両者ともこのポジションで非常に柔軟に状況に対応しています。
攻撃時はコンテ得意の高い位置を取るWBの動きで幅を作って相手DFを広げ、中央の3人にスペースを与える動きに成功しています。特にモーゼスは試合中何度も右サイドを縦に走り続け相手DFの意識を散漫させています。ボールを持った際に少しでも前線にスペースがあると見るや一気にトップスピードで駆け上がりボールを要求します。これをされては相手は意識しなければならない3トップに加えてモーゼスにも対処しなければならず苦しいでしょう。レスター戦のフクスや、ユナイテッド戦のブリントは守備に追われ続けました。

左サイドのアロンソはそこまでスピードに優れてはいないのでモーゼスほど継続的な走り込みはしませんが、彼の特徴は上述したキック制度。更にはDFにしては比較的高い足元の技術です。左サイドでキープ力を見せることが出来ますし、彼のサイドでマティッチやアザールとうまく連携して相手を攻略する場面もここまで多く見れます。
右サイドのモーゼスとペドロが突破の準備をしているときに逆サイドに展開し、アロンソの高精度のクロスを上げる場面も何度か見れます。
印象的なのはこの前のユナイテッド戦でアロンソのクロスを逆サイドのWBであるモーゼスが合わせようとしたシーンでした。ゴールにはなりませんでしたがWBによるクロスとシュートはいかにWBが高い位置を取り幅広い攻撃をしているのか分かるシーンでした。合わせてアロンソは元はサイドバックの選手ですからボールサイドで激しいプレーができます。188cmの長身でフィジカルも強く、ユナイテッド戦では彼が高い位置でボールを奪いそのままペドロにスルーパスを出して開始30秒でのミラクルゴールを演出しました。
この2人がWBでよい活躍を見せられていることは素早くコンテの戦術にフィットできたおかげです。


④守備ブロックの構築と穴
カンテ、マティッチのセンターラインは鉄壁です。4−2−3−1システムではコンテの指示なのかマティッチがより高いポジションでオスカルとカンテの間、セントラルでプレーすることが多かったです。(セスクがその代わり出れなかった)
なのでカンテ1人でDFラインの前をプロテクトし、さらにラフなボールへのインターセプトや両サイドへのカバーリングなど負担がとても大きかったです。
Wアンカーにしてからは負担も減り役割を分担できるのでこのDFとアンカーのスペースを突かれる場面は少ないです。

右サイドでは少ないですが、左サイドではマティッチとアロンソが良いブッロクを作れています。どちらもフィジカルが強く1対1にも強いので安定しています。ポジショニングに難がありすぐに裏を取られてしまうケーヒルの前で堅いブロックを作ることに成功しています。

何より前線でWBを含めて1stディフェンス、その後のカンテ、マティッチの2ndディフェンスが固くここまでの3試合連続無失点に貢献しています。


しかし穴がないわけではありません。
3バックの中央、Dルイスはビルドアップには優れたDFですが彼はあくまで夏のボヌッチ獲得失敗による次善策です。1対1などフィジカルを生かした場面では強いですが彼が中央で3バックという複雑なライン統率をすることは得意ですないですし、ケーヒルも同様に3バックに慣れておらずポジショニングのミスが目立ちます。アスピリクエタに関してはCBで起用されるとは思いもしませんでした。1対1に抜群の強さを見せますがフィジカルや高さではCBとして低いレベルにあります。

ハル、レスター、ユナイテッドはどこも攻撃に課題を抱えるチームで最後の局面まで突破できるシーンは少なかったのでそこまで気になりませんでしたが今後チェルシーよりも攻撃力に優れ、アスピリクエタやケーヒルの背後を狙うような戦術的な攻撃を仕掛けてきた場合に急造3バックのボロが出ないか、その点が心配です。
ベンチにも3バック経験者はいなく、そもそもコンテが3バックに対応できる選手の獲得に失敗したのでどこまでこの急造3バックで安定した守りをできるのか注目です。
個人的にはフィジカルに優れた選手をアスピリクエタと競らせたり、不慣れなボール回しに戸惑うケーヒルに厳しくプレスをかけてミスを誘発させたりすればいいんじゃないかと思いますね。
個人的にはズーマとかはフィジカルにもスピードにも優れていますし適応力のある選手なので復帰してきたら面白い活躍をしてくれるのではと期待しています。



コンテの導入したバック3システムについて、チェルシーにどうのような変化が起きたのかまとめてみました!
確かに強いチームですがこのまま行くとは思えません。どこかでコンテと選手の間で戦術的なズレや理解度の浸透による問題が起こるのではと思います。
さて、今後のチェルシーがどうなるのか様子を見ましょう。

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